婁塘鎮

時代の波にもまれる街

上海市の北西部の嘉定区は、新旧が同居するエリアだ。中心部は南宋の時代から続く街で、地下鉄11号線沿線ではマンションの建設ラッシュが続く。そんな嘉定区の北部に「婁塘鎮」がある。この街は600年を超える歴史を持ちながら、時代の波にもまれ、かつての輝きを失いつつある。時の移ろいを感じる街、それが婁塘鎮だ。

七曲八湾の街に漂う歴史の薫り
 
 婁塘鎮は上海の中心市街地に残る古い街並みと見かけ上はあまり変わらない。狭い路地が入り組み、黒い屋根と灰色の壁の家が延々と続いている。そこには上海の市街地とは異なるのどかな雰囲気が漂っている。
 この街ができたのは明代初期の1369年とされる。それ以来、豊かな農村を背景として市場が立ち、商業の街として栄えた。清代末期には大小百数十軒の商店が立ち並んでいた。現在も「住宅」と名の付く豪邸がいくつか残っていて、往時の繁栄をしのばせる。
 婁塘鎮の古い街並みは、中大街と小東路の周辺が中心となる。小東路には中華民国の時代に建てられた門も残っている。道はくねくねと曲がっていて、かつて「七曲八湾」と呼ばれた街の面影が感じられる。しかし、時代の流れで婁塘鎮の伝統文化は、その多くが失われている。嘉定で「食婁塘」と呼ばれた食文化は、住民の間には伝わっているものの、食堂で味わうことはできない。ゆっくりとお茶を楽しむ文化も、茶館が消滅すると同時に失われた。
 婁塘鎮は住民が普通に暮らしている街で、観光客の姿はまったくといっていいほどない。当然、観光用の施設もない。歴史ある街で繰り広げられる生活、それに触れられるのがこの街の魅力だ。


婁塘鎮の街並み。低層の建物が並び、いかにも庶民の街という趣だ
 

馬が走りやすいよう、道に細かい石が敷き詰められている。歴史の証人のような道だ

婁塘鎮への行き方
婁塘鎮への交通の便はあまりよくない。上海駅近くのバス停から出ている「沪唐専線」が最も便利だ。地下鉄11号線の祁連山路、武威路、南翔の各駅で乗り換えることもできる。婁塘のバス停で降りて、婁塘路を南に少し歩くと古鎮を南北に走る中大街に着く。

宝探し感覚で街歩き
 
 婁塘鎮は詳しい地図がなく、通りや建物にも大きな特徴がないため、場所の把握が難しい。この街にはどうしても訪れなければならないという名所はないので、街を歩きながら興味をそそる場所を探せばいい。何気なく歩いていても「おやっ」と思うような場所は見つかるものだ。宝探しの感覚でゆっくりと街歩きを楽しもう。


印家住宅
エリア南部の南新路沿いに「印家住宅」がある。近代の出版業界の著名人の豪邸で、解放後は政府の庁舎として使われていた。現在一部が図書館となっている。係員に断れば建物を見ることができ、内部も見学できる。


婁塘天主堂

エリアの西部に「婁塘天主堂」が立っている。清代後期の1877年に建てられた小規模な教会だ。長屋のような住宅の中にあるので、通りから見ることはできない。関係者がいれば門を開けて中に入れてくれる。
 

茶館の面影
中大街の橋のたもとにある建物。「茶芸」の看板から、かつて茶館であったことがわかる。その下に「音楽包房」「OK」の文字が見える。カラオケ店に業種変更したのだろう。現在は営業をやめ、シャッターが下りている。
 

婁塘鎮には生活のにおいが漂う。通りで普段の食べ物も見ることも多い。中国での生活に欠かせない「餅」を干している家もあった
 

トウモロコシも通りで干す


婁塘鎮の郷土料理を外部の人が味わうのは難しい。食堂のメニューは一般的な中国料理がほとんどだ。この街の特徴の1つは豊富な農産物だ。特にニンニクは「嘉定白蒜」と呼ばれ、700年余りの歴史を持つ。明代の本草書『本草綱目』にも消毒や健康維持に効果があると記されている。