中国のペットの歴史と最近の動向

4000年とも5000年ともいわれる中国の歴史。人と動物のかかわりにも長い歴史がある。そして、近年の改革開放政策による経済発展はペット事情にも大きな変化をもたらした。日本の「いなばペットフード」の中国の現地法人である「青島稲葉食品」に勤務し、ペットの事情に詳しい王里南さんに、中国のペットの歴史と最近の動向を聞いた。



青島稲葉食品有限公司
王里南さん


秦代から続く中国のペット

 
 中国は悠久の歴史を持つ国だけにペットの歴史も古く、イヌやネコを飼っていたという記述が昔の書物の中に見えます。中国最古の歴史書とされる『史記』の中に、紀元前221年に成立した中国最初の統一王朝である秦の宮廷でイヌが飼われるようになったと書かれています。また、鳥や魚、虫なども宮廷の貴族の間で日常的に飼育されていました。それは徐々に庶民の間にも広まっていきました。しかし、庶民がイヌとネコを飼う目的は、イヌが狩猟犬や番犬としての役割を担うため、ネコはネズミを取るためで、ペットというより家畜という性格が強かったといえます。
 時代が下り明、清の時代になると、市民の間にペットの飼育が普及しました。特に清代の支配階級である満州族の子弟がペットを愛好しました。彼らが好んで飼育したのは、イヌのチン、ペルシャネコ、ハト、オウム、ムクドリの一種のハッカチョウ、コオロギ、金魚などです。清代後期に長く政治の実権を握った西太后が大のイヌ好きだったことはよく知られており、それにならってイヌを飼うことが大流行し、清代のペットの全盛期が訪れました。
 
改革開放で訪れたペットブーム
 
 第二次世界大戦後の中国はその発展に紆余曲折があり、ペット事情もそれにともなってさまざまに変化しました。まず、中国の都市では全国的に1954年ごろからイヌ狩りが実施されました。これは国が衛生面の改善を推し進めたためで、都市部ではイヌの姿をまったく見ることができなくなりました。59年の新中国成立以降も、食料の生産と供給の問題から、「人が食えないのに動物に食わせる物などない」という方針で、イヌの飼育は禁止されていました。このころ一部で飼われていたのは、鳥や金魚といった餌をそれほど必要としないペットでした。
 1970年代の末期に改革開放政策が始まり、ペット事情も様変わりしました。海外の先進国に行った人がその国のペットの情報を持ち帰り、それがペットブームに火を付けたといえます。北京で正式にイヌを飼うことが許可されたのは94年のことで、それ以降、全国の都市で順次同じ政策が実施されました。上海は改革開放の先進地域で、ペットの飼育も全国に先駆けて拡大してきました。80年代の終わりごろから徐々に広まり、90年代に入ってからは一般の市民がペットを飼うことも珍しくなくなりました。
 改革開放政策で経済が急速に発展し、市民の所得水準が向上してペットを飼える経済的なゆとりが生まれました。そして、経済発展とともに仕事のストレスも高まり、癒しを求める人が増えました。イヌやネコは家畜としてではなく、愛玩動物として飼われるようになったのです。生活の伴侶であり、家族の一員であると考える人が増えました。
 最近では核家族化、人口の高齢化が進み、高齢者が夫婦2人あるいは1人だけで暮らすことが多くなりました。こうした高齢者がイヌやネコを飼うことも多くなっています。また、仕事のストレスを抱える未婚の女性も増えています。こうした女性は散歩などの手間がかからないネコをペットとする傾向があります。人と人のつながりが少しずつ希薄になっていることも、ペットブームの一因だといえます。
 
多様化するペット
 
 現在の上海で飼われてペットの中で最も多いのはやはりイヌです。ペット全体の約56パーセントを占めていると見られています。住宅価格が高騰している上海で大きな家に住むのは難しくなっています。そうした住宅事情からも大型犬は敬遠され、小型犬が人気となっています。プードル、ポメラニアン、ビジョンフリーゼが人気犬種です。
 ペットがブームになるにつれて、人とは違う個性的なペットを求める人も増えています。そうしたペットの1つに植物があります。植物はペットではないと思われるかもしれませんが、人気になっているのは食虫植物です。この種の植物は虫を餌として与えなければならず、動物のような感覚で育てることができます。
 また、中国らしいペットの愛好家も少なくありません。上海でも各地に「花鳥市場」があるように、鳥は昔から愛されているペットです。上海の公園に鳥かごを持って集まるグル―プを見かけることも珍しくありません。特にインコは人気の高い鳥です。また、カメやヘビといった爬虫類も中国らしいペットだといえるでしょう。ヘビは特に中国南西部の雲南省や貴州省の少数民族の伝統的なペットになっています。
 
ペット産業も隆盛に
 
 上海のペット愛好家がペットにかける費用は、平均月1100元といわれています。もちろん人によってさまざまで、多額の費用をかける人もいます。毎年春節になると、レストランは「年夜飯」という年越し料理を用意し1つの書き入れ時を迎えますが、最近ではペット用の年夜飯も登場しています。イヌの好きな肉の料理などが並び、その値段は数百元で人のものとそれほど差がありません。高級なペットを飼っている人は高学歴のホワイトカラー層が多いので、ペットに惜しげもなく費用をかける人も多くなっています。愛するペットが亡くなったとき、100万元もする豪華な霊きゅう車を手配して前面にペットの写真をはり、1万元近い費用をかけて葬式をしたという人の話も聞いたことがあります。
 ペット産業としてはペットショップ、動物病院、動物のホテル、動物の美容院など日本でもおなじみの店が増えています。また、昨年ペットの保険が発売され話題となりました。中国の大手の保険会社である中国人民財産保険が出したもので「寵楽保」という名前が付けられています。この保険は各種のイヌやネコが対象で、130を超える病気の治療に対応しています。イヌ、ネコの種類や保険の内容によって掛け金は年450元から3380元までと幅があり、保障も5000元から5万元までとなっています。今後もペットブームが拡大するにつれて、それに関連する産業も盛んになっていくでしょう。



大規模なペット用品コーナーを持つ
アピタ金虹橋店

 虹橋開発区の一角にある日系スーパー「アピタ金虹橋店」には、大規模なペット用品コーナーが設置され、王里南さんが勤めるいなばの商品をはじめさまざまな用品が販売されている。売り場の面積は60平米で、スーパーに併設されたペット用品コーナーとしては上海で有数の規模を誇る。販売されている商品は1000種類を超える。主に日本や欧米の大手ペット用品メーカーの商品が販売され、イヌ、ネコの商品だけでなくウサギやハムスター用の商品も並んでいる。コーナーにはモニターが設置され、イヌやネコのしつけも解説されている。スーパーの食品や雑貨も含め200元以上購入すると無料配送のサービスを受けられるので、重いペットフードなどを買ったときも、家まで運ぶ手間が省けて便利だ。日本人に欠かせない商品がずらりと並ぶスーパーの一角にあるペット用品コーナーは、買い物のついでに立ち寄ることができ、非常に利用しやすい売り場だといえる。

アピタ金虹橋店
(住)长宁区茅台路179号地下2层
(電)021-5290-2361