3人の保護者が語る「上海の国際的な学び」

上海の日本人を取り巻く教育事情は複雑だ。学校の選択の幅が広いだけでなく、それぞれの家庭の事情も大きく異なる。そんな中でインター校、現地校国際部を選択した子どもの保護者にはどんな思いがあるのだろうか。3人のお母さんに語り合ってもらった。
 



それぞれの事情で学校を選択
 
Aさん 私は夫と10歳になる双子の息子の4人家族です。夫の転勤によって上海で暮らすことになり、その後独立して起業しました。上海での生活は20年になります。2人の息子は現地校の国際部の小学5年生です。上海で生まれ育ったので日本で教育を受けた経験はありません。幼稚園は台湾系と小規模なインター系に通い、現在の学校が小学校からだと入学が難しいと聞いていたので、幼稚園の年長のときに試験を受けて入りました。学校を選んだ理由は世界共通のカリキュラムとして開発されたIB(国際バカロレア)による教育だったことと、私が旅行したときたまたま隣に座った女の子がその学校に通っていてすごくしっかりしていて、自分の子どもも通わせたいと思ったことでした。
 
Kさん 私は夫と18歳の娘の3人家族です。上海での生活は8年ほどで、その前は中国の他の都市で暮らしていました。娘は現在、アメリカ系のインター校の高校3年生です。以前は現地校の国際部に通っていました。日本の大学を受けること考え、中国語より英語の方が帰国子女枠が広がるので、中国語から英語にシフトチェンジする形で現在の学校に移りました。
 
Sさん 私は夫と9歳と3歳の2人の息子の4人家族です。上の息子は現在、アジア系のインター校のG3、日本でいうとこの4月から小学4年生になります。日本の幼稚園に一時期通っていましたが、これまでの教育はほとんど上海で受けています。インター系の学校の日本人向け幼稚園を卒業し、小学1年の半ばに現在の学校に移りました。せっかく上海にいるのだから日本人ばかりの環境ではなく、多くの国籍の子どもの中で学ばせたいというのが夫の意向で、幼稚園からの友人が転校したこともあって、本人も受け入れたので現在の学校に通うことになりました。
 
これまでの学びで得られたもの
 
Aさん IBによる教育はテーマに沿って探求していく、自分たちでリサーチして学ぶという面が強く、考える力を養えるいいカリキュラムだと思います。最も重視していた言葉の面では、家ではひたすら日本語を使い、授業は英語、その他は中国語という使い分けになっており、3つの言葉をまんべんなく学べる環境です。ただ、インター校と比べると中国色が強いのが特徴です。英語の力をネーティブレベルまで引き上げるには、日常から英語を使う環境が必要です。先に難しい中国語をと思っていたので現在は満足していますが、中学からはインター校も検討したいところです。
 
Kさん 娘はずっと中国で教育を受けてきたので、以前から日本の大学に進学することを考えていました。そのため日本の大学の帰国子女枠での受験を考え、現在の学校に編入することを決めました。日本での受験は大学にもよりますが、外国語の能力だけでなく日本語の能力も重視されます。現在の学校は日本語の授業が選択できるので、その授業の中で小論文などの勉強をしています。以前は中国語の簡体字が混じることもありましたが、現在はそんなこともなくなりました。娘の言語能力は日本語がネーティブ、中国語がほぼ同レベルで、英語は第三言語です。
 
Sさん 現在のアジア系インター校は、入学前に宿題が多くて大変だと聞いていました。実際に通ってみて、思ったほどではないと感じましたが、宿題の内容について日本の学校のように細かい指示がなく、自分たちで考えてやるものが多いので苦労しました。夫が息子とマンツーマンでやり、入学から半年ほどは泣きながらやることも少なくありませんでした。これも小学1年のときで、学習内容が比較的簡単だったのでできたことで、学年が上がって学習自体が難しくなってからではさらに大変だったと思います。息子の英語に接する機会はほとんどありませんが、東南アジアに旅行したとき欧米系の人と英語で話していたので、かなりの力がついているようです。
 
教育でも日本と中国の違いを実感
 
Aさん 2人の息子は双子ですが、性格にはかなりの違いがあります。夏休みに日本の小学校に体験入学したときにそれがはっきり出ました。兄は勉強が好きで日本的な細やかな心遣いもできて、日本の学校にもすぐにとけ込めました。弟は発言も率直でコミュニケーション能力は高いのですが、マイペースなので、少しとまどいがあったようです。中国だけでなく海外で暮らしていくには、自分の思ったことを率直に言語化するスキルが不可欠ですが、そうすると日本社会ではとけ込みにくいという矛盾を私も常に感じています。
 
Kさん 娘は母親である私から見ても「かなりマイペースだな」と感じるところがあります。高校進学のときに帰国し、日本の高校に入ることも考えましたが、学校での使用言語の違いや生活などさまざまなことを考え、本人の希望もあって大学受験のタイミングでの帰国を選びました。海外で長く暮らしている子どもが帰国するタイミングは難しいですね。
 
Sさん 私の息子は少年サッカーチームに入っています。メンバーが通っている学校は日本人学校、インター校、現地校とさまざまで、練習や試合に臨む態度にも違いがあります。時にはチームの枠を越えて練習や試合をすることもあり、自分の意見をしっかりと発信することが求められます。息子は控えめな性格ですが、サッカーでは意見をはっきり言っています。インター校に通っているおかげで、自分の思いを発信できるようになったのだと思います。
 
中国での学びを今後に生かす
 
Aさん 現在通っている現地校国際部は中学部になると、一気に大学受験モードに入ります。基本的にはイギリスの名門大学をターゲットにし、それに向けて勉強します。中学の一番楽しい時期がそれでいいのか悩むところですが、2人とも今の学校で英語で学びたいと言っているので、まずは本人の意思を尊重して様子をみる予定です。中国語能力は十分なので、あとは英語力をどこまで伸ばせるかが課題です。多くの国の子どもが集まっているので、親がしてやれることは、偏見のないオープンマインドと、コミュニケーションツールとしての日中英の言語能力を養うことで、あとは本人の選択です。ただ、ずっと中国で育ち、中国の人とも腹を割ってコミュニケーションできる彼らには、中国と日本の架け橋になるような役割を担ってほしいというのが私の希望です。
 
Kさん 娘は今年6月に現在の学校を卒業します。その後、日本に帰国し帰国子女枠受験を対象とした予備校に通って大学受験の準備をします。大学で何を学び、卒用後どんな仕事をするかは本人が決めることです。ただ、中国での生活と学校での学習で得たものを生かしてほしいという思いはあります。日本がいいと思えば日本で働くのもよし、海外のほうがいいと思えばそれもいいでしょう。将来の選択肢が広がったこと、それが中国の暮らしの中で得たものだと思います。
 
Sさん 夫の上海の赴任期間が10年を超え、あと1、2年で帰国の可能性が高いといわれています。そうなれば息子の学校も具体的に考えなければなりません。帰国子女枠で私立の学校に入る、地元の公立の学校に入る、日本のインター校に入るという3つの選択肢があります。本人はそれを意識しているのか、現在通っている塾で中学受験コースを選びました。中学受験を具体的に考えているとは思えませんが、日本語の勉強が必要だと感じてはいるのでしょう。夢はサッカーのプロ選手になることなので、それに向けてやるべきことを考えているのかもしれません。いずれにせよ本人の希望をできるだけかなえやりたいと思っています。